美容整形物語~口角挙上術

突然の告白だった。

「なんでいつも口がへの字なの?不満そうにして、何か文句でもあるの?」

 

今まで意識していなかったといえば、ウソになる。

もちろん、気が付いていた。

中学生になって、みんな落ち着いてくる。

友達とふざけあったりすることも、あまりなくなる。

知らいないうちに、普通に笑うことができなくなっていたかもしれない。

 

家でもそうだった。

兄弟がおらず、両親は共働き、家に話し相手はいない。

両親とは反抗期から、距離を置いていた。

話す言葉は2,3語程度。会話はおろか、テレビを見て一緒に笑うなんてあり得なかった。

 

別に、ふさぎ込んでいたわけではない。

ただ、思春期に入っていろいろ考えるようになり、自己完結的に自分の中で頭をめぐらせ、物事に色を付けていった。

そんな生活を続け、表情に色がなくなっていくのを自覚していく。

部活は帰宅部、塾に通う以外は学校と自宅の往復。

笑う機会はほとんどなかったから、クラスでは暗いヤツと思われていただろう。

 

あれから20年が経った。

大人になり、仕事もしている。

営業ではないが、事務方でもお客様との折衝などを行う部署に勤めている。

笑顔は決してうまいほうではないし、どちらかというと根暗だ。

それは中学生のころから変わっていない。

ただ、仕事を円滑に進めていく上で、笑顔は大切にしている。

社会人経験で得た知恵。笑顔こそ、人を和ませるだけでなく、自分の緊張も解くとわかった。

最低限のビジネスマナーといえば聞こえはいいかもしれないが、

私は自分の作り出す表情に自信があった。

まさか、自分の口がへの字にまがっているなんて、夢にも思っていなかった。

無表情だと、口角が下がる。

突然、恋人から言われてしまったのだ。

 

私は口角が下がるのは、普通だと思っていた。

両親もそう(特に母親)だし、友人の中にもいたからだ。

でも、みんな言わないだけで実は悩みを抱えているのではないか?と思った。

口角を上げるにはどうすればいいか、ネットを使って調べ、自分でできるものは実践もした。特に笑顔体操は頻繁に行った。

でも、長年のクセはやっぱり取れない。

 

どうすればいい。恋人に言われたその一言が、私の心を大きく揺り動かし、後押ししていた。

 

そんなある日、とある美容外科クリニックのサイトを見たとき、口角を上げる手術があることを知った。

それは、口角挙上術だった。